なぜ五島列島はクエ釣りの聖地なのか?
釣り人の間で「聖地」とまで呼ばれる五島列島。その言葉の響きには、一種の憧れと、たどり着いた者だけが味わえる特別な高揚感が含まれています。しかし、なぜこの場所がそれほどまでにクエ釣り師を惹きつけてやまないのでしょうか。それは単なるイメージではなく、明確な地理的・海洋学的な理由に基づいています。
五島列島は東シナ海に面し、周辺海域は暖流(対馬暖流など)の影響を受ける海域です。こうした海況がもたらすベイト(餌となる小魚など)が、上位捕食者であるクエをはじめとする大型魚の生息を支える要因の一つになっていると考えられます。さらに、複雑に入り組んだリアス式海岸と無数の瀬(沈み根)が、クエにとって絶好の隠れ家と狩場を提供しているのです。
つまり、五島列島は「餌資源の豊かさ」と「複雑な地形」といった条件が重なり、大型の根魚を狙えるフィールドの一つと考えられます。条件がそろえば、大型個体との出会いも期待できます。この記事は、そんな聖地への挑戦を夢見るあなたが、その第一歩を確かなものにするための、私の経験と観察に基づいた実践的な手引書です。
五島クエ遠征|計画から実行までの完全ロードマップ
憧れを現実にするためには、緻密な計画が不可欠です。特に離島への遠征は、思いつきでどうにかなるものではありません。ここでは、あなたが「何から手をつければ良いか」と迷うことがないよう、準備から帰港までを時系列に沿ったロードマップとして示します。

- 3ヶ月前:情報収集と予算計画
まずはこの記事を熟読し、遠征の全体像を掴みましょう。アクセス方法、費用の概算、ベストシーズンを把握し、自分の休日や予算と照らし合わせて、大まかな釣行時期を決定します。 - 1ヶ月前:各種予約の実行
釣行日が決まったら、すぐに飛行機・フェリー、宿泊先、そして最も重要な渡船の予約を行います。特に人気の渡船はすぐに埋まってしまう可能性があるため、早めの行動が肝心です。 - 1週間前:道具の準備と最終確認
タックルのメンテナンス、消耗品の購入を済ませます。荷物を事前に送付する場合は、このタイミングで発送手続きをしましょう。天気予報を確認し、渡船の船長に出船確認の連絡を入れます。 - 当日~帰港:五島の海を愉しむ
体調を万全に整え、忘れ物がないか最終チェック。あとは、五島の雄大な自然の中で、クエとの対話に集中するだけです。安全第一で、最高の思い出を作りましょう。
ステップ1:アクセス方法の決定(フェリー・飛行機)
本土から五島列島(主に福江島)へのアクセスは、大きく分けてフェリーと飛行機の2択です。それぞれに一長一短があるため、ご自身のスタイルに合わせて選びましょう。
| フェリー(福岡・長崎発) | 飛行機(長崎・福岡発) | |
|---|---|---|
| メリット | ・費用が比較的安い・荷物制限が緩やか(大型クーラーやロッドケースも問題なし)・車ごと渡航できる便もある | ・移動時間が圧倒的に短い・体への負担が少ない・時間を有効に使える |
| デメリット | ・移動時間が長い(例:長崎港~福江港はフェリーで最短3時間10分。出発地・便により所要時間は変わる)・時化(しけ)による欠航リスクが飛行機より高い | ・費用が割高になる・厳しい荷物制限(特に重量と長さ)・釣具の事前送付がほぼ必須 |
大量の荷物を一度に運びたい、費用を抑えたいという方はフェリーが、時間を最優先し、身軽に移動したい方は飛行機+荷物の事前送付がおすすめです。
ステップ2:遠征費用の徹底シミュレーション
「結局、総額でいくらかかるのか?」これは誰もが気になる点でしょう。ここでは、現実的な2つのモデルプランを提示します。あくまで一例ですが、予算計画の参考にしてください。

プランA:弾丸2泊3日(車中泊+磯泊)節約プラン
- 交通費(フェリー往復):時期・等級・出発地により大きく変動
- 渡船代(1泊2日):約15,000円~20,000円
- エサ代(2日分):約10,000円
- 食費・雑費:約10,000円
合計目安:55,000円~70,000円
プランB:余裕の3泊4日(民宿泊)満喫プラン
- 交通費(飛行機往復):約30,000円~50,000円(時期による)
- 宿泊費(民宿2泊):約14,000円
- 渡船代(2回):約20,000円(10,000円×2日)
- レンタカー代(3日間):約18,000円
- エサ代(2日分):約10,000円
- 食費・雑費:約20,000円
合計目安:112,000円~132,000円
ご覧の通り、プランによって費用は大きく変わります。ご自身の体力や予算に合わせて、最適な計画を立ててください。
ステップ3:宿泊先の確保と荷物の事前送付
五島での滞在を快適にするためには、拠点となる宿泊先の確保が重要です。渡船業者が経営している民宿は、船長から直接情報を得られたり、釣具を洗うスペースがあったりと、釣り人にとってメリットが多いでしょう。その他、素泊まりの宿やビジネスホテルなど、選択肢は様々です。
また、遠征の負担を劇的に軽くするテクニックが「釣具の事前送付」です。特に飛行機を利用する場合は、荷物制限(サイズ・重量)次第で事前送付を検討すると移動の負担を減らせます。ロッドケース、タックルボックス、クーラーボックスなどを、宿泊先の住所宛に発送します。必ず事前に宿泊先へ連絡し、荷物を受け取ってもらえるか確認を取りましょう。帰りは、釣具店や宿泊先から発送することで、身軽に帰路につくことができます。
釣果を左右する!五島クエ釣りの戦略的アプローチ
ここからは、単なる情報ではなく、釣果に直結する「思考法」についてお話しします。聖地・五島といえども、やみくもに竿を出して釣れるほど甘くはありません。私の経験に基づいた戦略的アプローチを身につけ、夢への距離を縮めてください。
ベストシーズンはいつ?時期と潮回りの考え方
五島列島でのクエ釣りは、一般に水温が高い時期(夏~秋)に遠征が組まれることが多いと言われます。特に、台風シーズン後の時期は水温や海況が落ち着く日もあり、遠征計画を立てやすい時期の一つとされています。
潮回りについては、「大潮が一番釣れる」と信じている方も多いかもしれません。しかし、私は必ずしもそうは考えていません。五島の磯は潮流が非常に速い場所が多く、大潮になると潮が飛びすぎてしまい、仕掛けが安定しないことがあります。むしろ、中潮や小潮回りで、潮が緩やかに動くタイミングの方が、クエが捕食しやすく、アタリが集中することも少なくないのです。特に、潮が緩む「潮止まり」の前後1時間は、何よりも集中すべきゴールデンタイムです。
また、夜釣りでは月明かりも重要な要素。闇夜を好む釣り人もいますが、私は月夜の磯も好みます。月明かりが海中をうっすらと照らすことで、ベイトの動きが活発になり、それを捕食するクエのスイッチが入ることがあるからです。
ポイント選びの思考法:実績場と地形から読む
渡船の船長は、その海を知り尽くした最高のガイドです。「最近、どこでクエが上がっていますか?」と尋ね、実績のあるポイントに乗せてもらうのは、確かに有効な手段です。しかし、それに頼りきるだけでは、本当の意味で魚に近づくことはできません。
大切なのは、「なぜ、そこで釣れるのか」を自分なりに考えることです。渡された海図や、スマートフォンのGoogle Earthを眺めてみてください。クエが潜むのは、急なカケアガリ(水深が急に深くなる場所)や、沖に点在する沈み根、そして潮が当たる岬の先端など、地形や潮の流れに変化がある場所です。船長から聞いた実績情報と、自分で読み解いた地形情報を重ね合わせることで、ポイントの解像度は一気に高まります。この思考法こそが、どんなフィールドでも応用できる、あなただけの一生の財産となるのです。

遠征用タックルと必須装備リスト
五島のモンスターと対峙するには、それにふさわしい屈強なタックルが必要です。また、離島の磯という特殊な環境で安全・快適に過ごすための装備も欠かせません。準備に万全を期すため、以下のリストを参考にしてください。
【タックル】
- ロッド:石鯛竿、またはクエ専用竿(200号以上の負荷に耐えられるもの)
- リール:大型両軸リール、または大型電動リール(PEライン15号以上を200m以上巻けるもの)
- ライン:PE15号~30号、ナイロン30号~50号
- リーダー:ナイロン100号~150号
- ハリス:ワイヤーハリス #36~#34
- ハリ:クエ針 40号~50号
- オモリ:六角オモリ、根掛かり防止オモリ 50号~100号
【必須装備】
- 安全装備:ライフジャケット(桜マーク付き)、スパイクシューズ、ヘッドライト(予備電池も)
- 磯泊まり用品:テント、寝袋、マット、食料、飲料水(多めに)
- 便利品:大型クーラーボックス(100L以上推奨)、ピトン、ハンマー、ロープ、ナイフ、プライヤー
- その他:レインウェア、着替え、帽子、サングラス、日焼け止め、常備薬、モバイルバッテリー
渡船(瀬渡し)完全ガイド|予約から渡礁までの作法
離島遠征の成否は、渡船の利用にかかっていると言っても過言ではありません。しかし、初めての方にとっては、電話一本かけるのさえ緊張するかもしれませんね。大丈夫です。ここでは、予約から当日の流れ、そして守るべき作法まで、一つひとつ丁寧に解説します。
予約時の伝え方:何をどう話せばスムーズか?
渡船の予約は電話が基本です。船長は海の上や作業中で忙しいことも多いので、要点をまとめて手短に話すのがマナーです。以下の項目を事前にメモしておくとスムーズです。
【電話で伝えるべきこと】
- 釣行希望日:「〇月〇日から1泊2日でお願いしたいのですが」
- 人数:「1名です」
- 狙いの魚種:「クエ狙いです」
- 経験レベル:「五島は初めてで、クエ釣りは〇回目です」
- 希望エリア:もしあれば。「特に希望はありませんので、船長のおすすめの場所でお願いします」のように、お任せするのも良いでしょう。
特に「初めて利用します」と正直に伝えることは非常に重要です。そうすれば、船長もより親切に、安全な磯や釣り方をアドバイスしてくれるはずです。船長はあなたの命を預かるパートナー。信頼関係を築く第一歩だと考えてください。
出船当日の流れと守るべきマナー
当日は、指定された集合時間に遅れないように港へ向かいましょう。基本的な流れとマナーは以下の通りです。
- 荷物の積み込み:船長の指示に従います。一般的に、重くて大きいクーラーボックスやバッカンを先に、繊細なロッドケースを最後に積みます。
- 乗船名簿の記入:氏名、住所、緊急連絡先などを正確に記入します。
- 船上での過ごし方:走行中はむやみに立ち歩かず、指定された場所に座ります。他の釣り人への挨拶も忘れずに。
- 渡礁:船が磯に着いたら、慌てず船長の指示を待ちます。荷物は船長、他の釣り人と協力してリレー形式で降ろします。感謝の気持ちを忘れずに。
これらは、安全で気持ちの良い一日を過ごすための、釣り人としての「作法」です。常に周りへの配慮を心がけましょう。
【重要】キャンセルポリシーと時化(しけ)の場合の対応
遠征計画で最も注意すべきは、天候による計画変更です。海のコンディションは誰にも予測できません。
予約時に、必ずキャンセルポリシーを確認しておきましょう。自己都合のキャンセルの場合、いつから料金が発生するのかを把握しておくことは、社会人としてのマナーです。
また、時化による欠航の可能性は常にあります。出船できるかどうかは、前日の夕方頃に船長に電話して確認するのが一般的です。もし欠航になった場合に備え、観光に切り替えるなど、代替プランを考えておくと、万が一の時も心に余裕が持てます。自然が相手の遊びだということを忘れず、柔軟に対応しましょう。
堤防クエ師が見た五島の磯
渡船を使えば、魚影の濃い磯へ行ける。船に乗れば、手付かずのポイントへ行ける。それでも、私が普段「堤防」という足場の良い場所に立ち続けるのには理由があります。それは「日常のすぐ隣にある非日常」を、知恵と観察で攻略する愉悦があるからです。
しかし、クエ釣りの聖地・五島は別格です。ここでは、磯に立つことこそがクエへの最短にして最良の道となります。普段、私が堤防のケーソンの継ぎ目や基礎石のわずかな隙間といった「人工的な隠れ家」を執拗に分析する視点は、五島の磯というフィールドで新たな意味を持ちます。
複雑に折り重なる岩礁帯、潮がぶつかりヨレが生まれる水道、沖に隠れた根の連なり。これらはすべて、堤防の構造物を読み解くのと同じ「変化」です。堤防で培った「なぜここに魚が着くのか?」という観察眼は、この「自然の要害」を読み解く上で、間違いなく強力な武器となります。フィールドは違えど、クエの付き場を探し当てるための本質は変わりません。五島の磯は、私の「堤防クエ学」の応用編であり、その真価が問われる最高の舞台なのです。このサイトは、そんな私の探求の記録でもあります。詳しくはトップページの理念もご覧ください。
五島遠征でよくある質問(Q&A)
Q1. 釣ったクエの処理と本土への配送方法は?
A1. 釣れたらすぐに血抜きと神経締め、内臓の処理を行い、氷を詰めたクーラーボックスで保管します。五島市内の釣具店や運送会社の営業所から、クール便で自宅へ発送するのが一般的です。梱包用の資材を扱っているお店もあるので、事前に確認しておくと良いでしょう。
Q2. 磯の上で携帯電話の電波は入りますか?
A2. 場所によります。多くの磯では電波が入りますが、島の影になる場所や湾の奥まった場所では圏外になることも珍しくありません。万が一の事態に備え、モバイルバッテリーは必ず携帯し、家族や渡船の船長には、どの磯に渡るのかを正確に伝えておきましょう。
Q3. 五島(福江島)でおすすめの釣具店やエサ屋はありますか?
A3. 福江港周辺には、遠征者向けの品揃えが豊富な釣具店が複数あります。冷凍のサバやイカといったクエ用のエサも現地で調達可能です。渡船の船長に尋ねれば、おすすめのお店や最新の釣果情報を教えてくれることもありますので、積極的にコミュニケーションを取ってみてください。
